まどろみ3秒前

名前が出てほしくなかったのは、彼女は、本当に死にそうだったから。ツンと触れれば、壊れてしまいそうな人だったから。

だからもしかしたら、朝の夢が叶ってしまうかもしれない。朝は、口説くのがうまいし…

ごめん、朝。俺が止めればよかったのかな。この世から、翠と朝が消えたとき、俺はきっと何年もこの先、この瞬間を後悔するかもしれない。

でも、そんなことはどうでもよかった。

最後のお願いを、聞きたかっただけだった。








次の次の日。


昨日、彼女は手紙を見たんだろうか。今日、学校に来ていなかったら、もしかしたら…


「え待って?来てんだけど」

「えーなになに?」

「くまやばくね?さすがに大丈夫か心配~」


教室中が少しだけ騒がしかった。彼女への陰口を言ってクスクス笑う奴らは何度も見てきたが、今日は違いざわざわと騒がしかった。


「っ…え、いる」


―翠が、朝から学校へ来ていた。


朝陽が差す窓辺に、彼女がいることが全く見慣れずにいた。目を擦るが、彼女はいる。夢じゃなくて、現実だった。
< 175 / 426 >

この作品をシェア

pagetop