まどろみ3秒前
彼女がベンチに座っている後ろ姿は見える。
だけど、ひとりじゃない。彼女だけじゃない。その先に、足が見えるし、彼女は上の方を見て何やら口を動かしている。
その誰かは、座るのではなくそこに立っていて、木に隠れて丁度姿が見えない位置にいた。
「あさ…」
上手い事を言って、どうせ見られないように座らないようにしてるんだろう。そういうところも、本当にあいつは上手だ。
なんだよ。2人とも生きててよかった、なんてどこか思った。また不法侵入して…
言いたいこと、あったんだよ。
朝の病気とか、どうだっていいから。
手の甲の、傷を見つめる。
昨日のことのように、記憶が鮮明に蘇る。
切り傷のように細長く赤いこの傷は、治るのに時間がかかりそうだった。でも、俺はそれを恨んだことはない。
「翠だって…あんな奴と関わんなよ…」
朝に優しく笑われたとき、朝に軽く頭を叩かれたとき、朝に勉強を教えてくれたとき、朝とふざけ合ったとき。朝に怒られたとき。
朝の本当を知ったとき。
朝に、刃物で傷付けられたとき。
「大嫌いだよ…」
そう、朝も俺にそう言ってほしかった。
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