まどろみ3秒前

…あれ、誰に、見せたいんだっけ。

誰に、私は待ってもらってたっけ。








「1つね。お医者さんに言われたんだけど、注意しないといけないことがあるんだって」

「注意?」


大きな病院から帰っていたとき、私はお母さんから言われたことがあった。あの若い医者から、何を聞いたんだろう。


「長く眠るほど、記憶が曖昧になること。特に人とかね」

「…へぇ」

「でも、ちゃーんと思い出すのよ。心配しなくていい、大丈夫。翠なら、大丈夫だよ」


お母さんは、優しく私に微笑んでいた。


―その事を、思い出した。


体温計で測ってみると、36度。普通の温度だった。風邪じゃ、ないのかな。

体温計をリビングの棚の引き出しに戻しつつ、聞いてもわからないのはわかっていたが、お母さんに聞いた。


「顔は思い出せるんだけど、あんまり声とか名前とか思い出せなくてさ…誰なの、かな」

「えーお母さん、翠のこと何にも知らないからわかんないけど友達とか何かじゃない?」

「…そうかな」


確かに、お母さんに何にも話してなかったな、なんて今更だけど思った。ずっと、笑って繕ってばかりだった。今もだけど。
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