まどろみ3秒前

怖かった。私を待ってくれていたのは、朝くんじゃないとしたら。もしかしたら、ピン留めは何かの間違いで、私の記憶が…


『翠さん、おはよ』


彼の低くて優しい声が、まるで雨のように私の心に落ちた。私の名前を呼ぶ。


『もしかして、寝起き?』


どうしてなんだろう。彼の声を聞くと、どことなく落ち着いてしまって、涙が出てくる。

涙の嗚咽が聞こえないように声を噛み殺して、私は「うん…」と頷いた。


『会いたいんだけど、会える?』


また私は「うん…」と頷いた。噛み殺していると喉が痛くてとても苦しかった。でも、泣いてるって思われるのは嫌だ。


『テストの点数聞かせてもらわなきゃだし』


覚えてくれていた。私は最低だ。朝くんは私のテストのことを覚えていてくれたくせして、私は朝くんのことを、忘れていた…


『あの公園集合』

「…雨、だ、けど」


外は雨。天気予報を見れば、この雨は徐々に強まっていくことになっていた。


『雨?あーそんなの関係なくない?雨だから俺に会わないとかあんの?』

「ご、ごめんなさいごめんなさい」

『嘘うそ、ふふ。じゃー待ってるから。涙おさまってから来て?』

「は…泣いてたのわかってたの…!?」


彼は優しく笑って、電話は切れた。
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