まどろみ3秒前
sleep 9 ありがと。
私は赤い傘をさしながら、黒い傘をさす朝くんについていく。
見たこともない行ったこともない道へ出てきても、迷子になった気分にはならなかった。1人じゃなくて、朝くんがいるから。
―2人で雨の町をしばらく歩いた。
サラリーマンや、帰り道を歩く女子高校生、おばあさんがすれ違いざまに通っていった。
雨の音が、静寂をかき消していく。
「ねぇ、どこ行くの」
「ん、内緒」
勇気を持って静寂の中で言ったつもりだったが、そう答えられるだけだった。
彼は何も言わないで進んでいく。
傘に跳ねる雨の音。雨の音は、段々と強まっていくように感じた。
無理させるって、どういうことなんだろう…
河川敷が見えてきた。小学生の時にはここの河川敷でマラソンをさせられたりしていた。川と、湿った雨の匂いがする。
河川敷を辿っていくと、踏み切りが見えてきた。電車に乗っている人は、この時間帯だと多くいた。踏み切りを待つ人は私達だけだった。電車が通りすぎて、踏み切りを通る。
この辺の人通りは少ない。増してや雨で、人通りはゼロといってもおかしくはない。
そこには、バス停があった。