まどろみ3秒前
屋根がついていてベンチがあり、バスマークがついた看板がある。河川敷の前にある、バス停だった。
「え、バスに…」
私が聞いた瞬間、彼は立ち止まった。
「もうこのバス停は使われてない」
ここは、廃バスの停留所らしかった。最近はバスの利用者も減ってきているらしい。
壊されていなく、今でも錆びた看板がたち、ベンチは、まだ今もバスと人を待っているように、寂しさを感じさせた。
黙って黒い傘を閉じて、彼は屋根のついたバス停下へ入っていった。私も続いて屋根の下に入って、傘を閉じた。
もう辺りは暗い。バス停に奇跡的についていた電灯だけが頼りだった。
建物や電灯、雨までもが、川に反射している。一粒一粒と雨が川に落ちていき、波紋が広がっている川の姿は、とても綺麗だった。
川の匂いが頬をくすぐる。
雨の音がする。
雨の匂いがする。
電灯の明かりには、小さな虫が光を求めてやってきていた。
「ねぇ、翠さん」
雨の静寂を破ったのは、朝くんだった。
低くて、綺麗な声が屋根付きのバス停に響き渡る。この世界の人は、私と朝くん以外、みんな滅びてしまったみたいな錯覚だった。