まどろみ3秒前
「深夜の2時半だけど」
彼は、落ち着いた口調で言った。
「…深夜…?」
「気絶してから、数時間しか経ってない」
数時間。希望でも絶望でもない、何かの光のようなものが私の心に溢れだした。
その時、鼻の奥がツンとして痛くなった。気付いたら、私は泣いていた。
「起きれたの…?ほん、と…?寝坊せず…?」
涙が溢れてきたので起き上がろうとしたが、思うように体が動かない。
「ほんと。嘘じゃない。なに、寝坊って」
私は、声がする方にやっとのこと首を向けた。大きく目を開けて、その顔を捉えた。
すぐ隣には、横になった顔があった。
私を止めてきた、あの、男の人がいた。
綺麗な顔が近くにあり、彼の透き通った茶色い目と目が合った。
声が近かったのもそのせいだったらしい。
一緒に、寝てたってこと…?
「やっとこっち、向いてくれた」
彼は、嬉しそうに優しく笑った。
「なんで泣いてんの」
「…なんで、泣いてんでしょね、私……」
声を押し殺しながら、私は、人前で久しぶりに涙を流して泣いた。我慢してきたものが溢れでてくるような感覚だった。
何故か、恥ずかしくも情けなくもない。
それは、彼が私のことを知らないから。
だから、存分に泣いてやろう。もう、それでいいや…