まどろみ3秒前
すると、彼は笑い出しながら起き上がった。
乾いた髪には寝癖がついている。
私も、なんとか上半身を起き上がらせた。
「あーあ、バカらしい」
私を見て、彼は笑っている。
それに対して、無理矢理にでも自分で笑った。反抗もできない。だって私のしていることは、バカそのものだから。
「さっきまであんなに嬉しそうに泣いてたのに、なに急になんで助けたのかとか言う?素直に生きててよかったって言えばいいのに」
「はは…ですよね……」
「あと、助けを求めたのは翠さんだから」
その言葉が鼓膜に響く。必死に保っていた笑顔を、失った。
「…私が助けてなんて?言うわけがない」
記憶を頭から探す前に、私は言った。もし言っていたとしたら、私はバカらしすぎる。
「言った」
「言ってない」
「言ったつってんの」
「…言ってない」と最後にまだ言った。
彼の言う通りだ。自分で死のうとしてたのに、起きれた…と泣いていた自分が、彼は何も知らないのならバカらしいと思うだろう。
でも、私は違う。
数時間で起きれたのは、小さい頃以来なのだ。
単なる気絶だったからか、3日も寝たし、この症状が治ったのか。
淡い期待や救われた感覚があったから、私は泣いてしまったんだろう。
「はは、ごめんなさい。…もう、帰ります」
私は、足を動かしてベッドから降りる。
この部屋は、とても少ない家具で、殺風景だ。白いカーペットとベッド、机、棚、窓…
男子の部屋ってこうなのかな、なんて思いながら頬に残った涙を拭い、部屋の出口らしき場所へふらふらとした足取りで歩く。
頭がズキンズキンと痛むが、そんなことは、心の底からどうでもよかった。
「どこ行くの」
後ろから、私の手首を掴まれる。その手はとても冷たい。私はそれでも、振り返らない。