まどろみ3秒前

その時だった。急激に痛みが走った。

首ではない。幸いにも、手の甲だった。


「っ…」


見ると、手の甲に長い切り傷が入っていた。傷は深いようで、赤い血が、朝の涙と共にどろどろと下に溢れ落ちていく。布団に染み渡る血。

部屋を出ようとする朝の背中に、言い放つ。


「お前、逃げんな…!!」


振り返った朝の目は、控えに言っても死んでいた。そんな目で、俺は捉えられる。


「っ俺はもう、朝のことなんか嫌いだから」


朝は、何かを言おうとして、口を開く。

が、ぎゅっと口を紡ぎ、何も言わなかった。


―あの時も、今も、なんで俺のこと嫌いってなんで言わなかったんだろう。


その後のことはよく覚えてない。


どうして、この瞬間に、何10年も築き上げてきたものが崩れたのか。

俺のせいでもあるが、朝のせいでもあると俺は負けん気で、今でも思っている。

赤ん坊の時くらいから、俺らは一緒に遊んで、笑い合って。本当の気持ちをぶつけ合ってた仲だった、友達、だったのにな。

それが、こんなもので終わるなんて……

色んな、笑う朝との情景が浮かび上がる。

俺は、手の甲から落ちる赤い血と、自分の目から出る涙を、ただ、じっと見つめていた。








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