まどろみ3秒前

【said Sui】


彼の病気は次第に酷くなっていき、今では、1ヶ月以上も眠れなくなっているらしい。

1ヶ月以上、1度も、眠りに落ちてない。

私からしても、いや世間からしても、これは、信じられないことだ。


―話を聞いたとき、真っ先に思ったことは、私と真逆の病、だということだった。


「それで、精神の状態が悪くなっていく」


―夜が怖い。
―俺が傷つけたのに。
―嫌いって言えなかった。


全ての言葉が、今、結び付いた。


目が悪いというのも、真夜中に電話したらすぐに応答してくれたのも、朝陽を見るのが辛くなさそうだったのも、全部……


「あいつにも、俺は手に傷をつけた。全然、記憶はないんだけど」


寂しげな横顔で、彼は、また手の甲に張った絆創膏をいじる。ひるは、朝くんの腕の中にいる。


「まあそれで、また気付いたら俺の手にも傷が入ってた。俺の精神の状態が、最近悪化してきてる。…翠さんを見たら、落ち着いてたんだけどな。最近、会えてなかったから」


人を知ることは、大切だ。もっと、ワガママ言って知ろうとすればよかった。

朝くんは、私の知らないところ苦しんできていた。今も夜や朝に怯えながら、ひとりで、ずっと眠れない夜を、過ごしている。


どれだけ、辛いんだろう。

どれだけ、怖かっただろう。


眠りすぎる私を、恨まなかったのだろうか。
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