まどろみ3秒前
「…勝手に賭けてたとか、最低ですね」
「でしょ。だから、俺はクズなのよ」
どこか寂しげにふっと笑う朝くんに、「でも、」と私は続ける。
「私が死ぬのを止めたのは、朝くんだから」
「…ん、え?」
「誤魔化して笑い飛ばして、どうでもいいが口癖で。何度も死のうとしてた私を、あのおちょこ橋って変な名前の橋で止めてくれたのは、毎回、誰だったっけ?」
「あーいや、あれは止めたわけじゃなくて…」
「こんなボロボロな私に、手紙で橋に呼んできやがって。結局は、私が死のうと思って橋には来たけど。なんか、一緒に寝ちゃった記憶はあるし。…ほんと、頭おかしいから」
はるか昔のように、懐かしく感じる。親友だった柚に言われた通り、あの頃の私は、笑ってばかりで気持ち悪かった。
今だって笑ってばかりだ。情けない背中で生きている。
それでも、それでも…
今は、少しでも変われただろうか。
いや私は、変われたって信じたい。
「なんか、俺と翠さんっておとぎ話みたい」
茶色い目は、あの医者と同じ目だった。茶色い瞳には、くまの深い私だけが映っている。
今度は、私が続ける。
「眠りすぎる病気の私と、」
「眠れない病気の俺の、…ラブストーリー?」
「え、い、いや恋じゃない、で、ですけど」
「ツッコミ下手くそかよ」
笑いながら、よしよしと私の頭を撫でる。嫌がって手を払うも、またより一層撫でてくる。元気を取り戻してくれたようで、少し、安心した。