まどろみ3秒前

「ほんとは苦しいし、辛い、かもしれない。眠ったら、溺れるみたいに苦しみながら沈んでいって。足掻いても、私はただ、沈むことしかできなくて、…どうしようもない」


あの、夢みたいだ。

沈んでいく。そんな、私は未来だった。


「ちゃんと苦しいって言えてえらいと思う」


優しくまた、私の頭を撫でる。


「でも、俺はずっとずっと、」

「待ってるから、でしょ」


朝くんは、こくんと頷いた。私は笑って、ありがと、とだけ言った。


「……翠さんのそんな顔、初めて見た」

「え、どんな顔?」

「…悲劇のヒロインみたいな、顔。どんな時でも、いつもそんな顔しないで笑ってるから」


どこかまた寂しげに笑う朝くんに、私はただ、下を向くしかなかった。


「顔、上げて」

「こんなんで顔上げれる人間、存在しないから。ほんと人の心考えてよ……」


心配してくれているのは承知の上だ。冷たく当たってごめんなさい、と心の中で何度も謝る。顔を見られないように、下を向く。


「覚えてる?下を向いてる翠さんに言った俺の言葉。今も、何も変わってないから」

「…え?」

「感情なんか捨てて、死にたそうに、頑張って顔上げてる翠さんが、俺は好きなの」


今にも崩壊しそうな目で、私に言った。
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