まどろみ3秒前

「どうせ、すぐ、夜は来る」

「…」

「またバカみたいに朝くんを忘れて、自分で起きれずに、また情けなく眠り続けて。……なのに、この時間に、意味って、ある?」


重くならないように、軽く笑って言った。

どうしてなんだろう。会えたのは嬉しい。思い出せたのも嬉しい。私は性格の悪い奴だからか、冷たく当たってしまう。

嫌われただろうな、と思った。

折角、私のために泣いてくれて笑ってくれて、待っててくれたのに。

ああ、久しぶりに笑みを浮かべたからか、頬が痛くてたまらなくなる。

こんな自分が、吐くほど嫌いだ。


「なにひねくれてんの?バカかよ」

「別にひねくれてなんか…」

「言っとくけど、記憶を失くしても、どんなに意味ない時間でも、俺にとっては大切だから。だって、俺は記憶失わないし」


彼は枯れた四つ葉のクローバーを見つめる。3ヶ月間、連絡のない私を、この病院にも来ず、本当に待っていてくれたのだろうか。


「翠さんと一緒に見た青空も桜も、どんなにいらない瞬間の記憶だったとしても、俺にとっては、死ぬまで忘れてやらない記憶になる」

「…死ぬまで?」

「翠さんが俺のこと忘れても、俺は、死ぬまで翠さんと過ごした今を覚えてるから」


死ぬまでて…、流石に忘れるでしょ?

どこにそんな保証はあるのかと、ひねくれた冷たい心が言っている。

すると、私の頬をむにゅ、と指で挟んでくる。そんな私の顔を見て、勝手に笑う。
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