まどろみ3秒前

その時、頭に温もりが触れる。

ドキッと心臓が鳴って、肩が震えた。朝くんは一瞬躊躇したが、また私の髪に触れる。


「不安にさせた、ごめん。いちばん怖くて、いちばん悲しいのは、翠さんなのに」


ごめん、また謝る彼に私は、ただ首を振る。


ああ、この感覚は久しい。何も感じなくなった。無意識のままに、感情を殺したようだ。


雨の音がする。この雨の匂いも、朝くんには、わかるんだろうか。

そんなどうでもいいことを考えて、何になるんだろう。


「ねぇ、朝くん」

「…ん?」

「眠れるし、いいんだよこの病気も」


私の目は、死んでいると思う。うまく笑えなくて、下手くそに笑っていると自覚はある。


「辛いことも、苦しいこともない。ただ、寝てれば、時間が過ぎていくんだから」


胸が痛くて、どうしようもなく息苦しい。

私はベッドから降りた。軽い足取りで、でも重い鉛を持ちながら、私は生きていた。


「私に同情して、怖がらなくていい。私は別に、いてもいなくても、変わらないような存在だから。苦しまなくて、いいんだよ」


どこかやけくそだったんだ。


「私、この病気が大好き」


もう、嫌になったんだ。


「待っててくれてありがとう。でももう、待たなくていい。ひとりで眠って起きるから」


病室の扉を掴む。止める動作も、止める言葉も後ろからは聞こえない。

そんな、関係だったんだ。所詮、その程度。

待ってるとか、嘘ばっかり。そんな風にしか、私は思えない。人を信じれないから。


「追って、こなくていい」


私は扉を開けて、廊下に出た。どこかへまた、彷徨うように歩きだした。








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