まどろみ3秒前

夜になっていく。


温度が冷んやりする。辺りが暗くなる。空が夜の色に染まっていく。

雨は、止むことなく降り続けていた。

しばらくして病室に戻ったが、あの人の姿はない。パイプ椅子は、主を失ったように、どこか寂しさを感じさせた。


「よかった。いなくなってる」


ほっとしてベッドに腰を下ろした。

いなくなってくれて、よかった。待ってるとかいらない。ひとりでいいのだ。


―ひとりで、苦しさも辛さもなく、眠りたいから。そうすれば、私は幸せ者だ。


私の病気は最高なんだ。


人が感じる苦しさや辛さを、私は感じる必要がない。眠っていれば、どんな瞬間も、勝手に時が過ぎていくんだから。


私は、ただ、眠っているだけでいい。

何も、感じる必要はない。


朝くんがいるから、お母さんや友達がいるから、辛くなる。

全部、そのせいだ。

だから、会わなくていい。ひとりでいい。今までもそうだった。眠るのが惜しく辛くなるから、私は人を嫌い、心を開けないまま。


「えっ?」


そこで、気づいた。

窓際にあった、花瓶がない。枯れてしまった、四つ葉のクローバーの姿がない。

ホコリの舞った窓際が、花瓶の底の形を作り出していた。


「なんで…?盗まれた…?いや…」


あんな枯れた植物、盗む人がいるはずない。

いるとしたら……


「っあいつ…!」








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