まどろみ3秒前
「あらあらこんなに泣いちゃって。ほら、お母さんは家に帰ったのよ。早く病室に戻ろう?」
「お母さんなんで帰るの…?僕のこと嫌いになったの…?なんで…?」
男の子は、私の握った手を離さないでいた。ぎゅっと、小さな力で力を込めていた。
「違うよ。お母さんは、まだ赤ちゃんな弟さんの面倒を見なきゃいけないの。あなたのことは、家から応援してる。あなたは、今から悪い悪いばい菌さんと戦うのよ。大丈夫、明日にまた、お母さんと会えるから」
ほら、お兄ちゃんでしょう?と最後に後押しされ、男の子は「でも…」と口ごもる。
「やだぁ…病室怖いもん」
「うん、一緒に行ってあげるから。ね?」
病室は暗闇で静かで。怖い気持ちはわかる。小さな子供なんて、尚更怖いだろう。
「すいちゃん…すいちゃんと一緒に行きたいよぉ…」
受付の人が私にちらりと目を向けて、男の子に「こら」と少し眉を潜める。この人は、私の病気のことは、知っているんだろうか。
「いや、行きますよ別に」
「…そう?ごめんなさい、私まだまだ仕事があって。病室の番号は教えるから、付いていってあげてくれる?ごめんね」
こくんと頷いた。小さな手を握ったまま背を向けて、小さな足取りに合わながら歩きだす。