まどろみ3秒前

なにか言おうと口を開いた途端なことだった。なんでなんだろう。我慢する間もなく、涙が溢れてきてしまった。


「すいちゃん?なんで、泣いてるの…?」

「ごめんね…うん、また明日ね…」


本当に、泣いてばかりだ。涙を拭って、立ち上がろうとする。

すると、優しい温もりが私を包んだ。

ぎゅっと抱きしめてくれる。その温もりは、あの人がくれたものと似ている。


「すいちゃんにも、大丈夫のおまじないかけてあげるね」


同じように人差し指をくるくる回して、私に指先を向けた。

大丈夫。その言葉は、残酷でもあって、でも、優しい勇気をくれる言葉。


「ありがとう、ありがとうね……」


ぎゅっと最後に抱きしめてから、男の子が病室に入るまで見送った。笑顔で、「また明日ね!」と言ってくれた。


会いたいなぁ、また、朝が昇った明日に。

こんな病気、なかったら…


「すーいさん」


後ろから声が聞こえて、振り返ると、どこか笑みを浮かべる夜野朝くんがいた。


「っちょ…」


途端に、頬を触れられる。冷たい感触。何をされるのかと思い、思わず後ろに下がった。親指が私の目下に触れる。私の涙を拭った。


「また、泣いてんの」


否定できない。

けど、朝くんだって最近泣き虫だ。さっきだって泣いていた。いやまあ、そんなこと私が言えることじゃないけど。
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