まどろみ3秒前
「俺は、眠れないから。朝も昼も真夜中も、ずっとずっと、今を生きなきゃいけない。気がついたら朝が来てる。…辛かった。精神的にも、自律神経のせいで苛ついたりする」
目の下にくまもない。どうして、私はこんなにもくまが深いんだろうと疑問に思う。
「俺は、今を生きたくないから。…今を生きれなくて嘆いてる翠さんが、心底、羨ましかった」
別に嘆いてるわけじゃ、と否定すると「だから、」と彼はどこか強い口調で続ける。
「寝てれば時間が過ぎていくとか」
―辛いことも苦しいことも、寝ていれば過ぎていく。この病気は最高なんだ。
「辛いことも苦しいことも感じないだとか、この病気でよかったとか、意味わかんないことばっか、嘘つくなよ」
「…っ」
「ほんとは、進んでいく時間が、変わっていく世界が、怖いくせに」
軽く私のおでこにデコピンを入れる。痛くもないのに「痛っ、」と反応してしまった。
「ほら、わかった?」
「っ…嘘でした…ごめんなさい…この世界が変わってくから…怖くて…だから…、」
「えらいえらい」
彼は私の頭を撫でる。何度撫でられたのか、数え切れられないくらいだ。
離そうと手を引く朝くんの手首を、私はぐっと掴んだ。
彼の「えっ」と声が病室に響く。
「それでも夜は、来る」
私は、真っ暗に包まれた空を見やる。
私の小指と、彼の一回り大きな小指を絡ませて。
「これだけは約束して、絶対、守って」
「…なに」
「眠る私を、起こさないこと」