まどろみ3秒前
雨の音がする。窓からの雨水がたまにこちらに飛んでくる。病室の明かりは、薄暗くてどこか怖い。あの男の子はぐっすりと眠れているだろうか、なんて、ふと思った。
「…なんで」
彼は、静かにそっと呟く。
茶色く、優しい目には私が映っている。
「俺かもしんないのに?その、翠さんを起こせる王子様ってやつ…、っまた、起きてる世界がどうでもいいからとか言う?」
絡ませた小指の力が、ぐっと強くなる。私の力じゃない。私は横に首を振る。
「世界人口、約8億分の、1人。私にはきっと一生出会えない、運命の人。…もし、朝くんが私の瞼を開かせられなくて、ああ無理だってなるのが、怖くて嫌なんだよね」
あの若い医者の顔が浮かんだ。そう、医者も言っていた。出会う確率は、奇跡だ。
それでも、私は負けず嫌いだから。無理だって、思いたくないんだ。
だから、起こさないでほしい。そう願った。
「次で、3年5年眠る。いや、もう一生かも」
「そんなの、わかんないくせに言うな…」
「私は、何年何百年寝ても死んだって、もういいって思ってる。どんなに世界が変わっても、私の世界が終わったとしてもいいから」
どうなるかもわからない、この病気。
私は、そっと絡めていた小指を離した。
「俺が…そんなの…っ」
「許したくない?」
「許したくない…眠ってほしくない」
私は、「そっか」と笑う。