まどろみ3秒前

別に死ぬわけでもないというのに、まるで、余命間近のヒロインのようになっていることに笑ってしまった。


失うのは時間だけなのに、どうしてこんなにも、息苦しく、悲しいんだろう。


「朝くんは優しいなぁ、ほんとに」

「は…?優しくない。俺は、いつだって優しくなかった。なんでそんなこと言える…?」


私に見せない、どこか脆い姿だった。


「朝くんは、朝陽みたいに優しい。だから、死んだように生きてる私みたいなんじゃなくて、ちゃーんと生きる価値がある」

「無理、生きれない」


もう起きたら互いに大人かもね、なんて言って笑って「だから、」と続ける。


「四つ葉のクローバー、誰かにあげて、幸せになってよ。待つだけなんて嫌でしょ?人は沢山いる。私のことなんか、忘れて」


ああ、言ってしまった。変わってしまうんだろうか。もう、変わるなんか嫌だというのに。


ちょっと甘えた態度も、私に向ける目の色も、一緒に見る空の美しさも、雨の音も、私にくれる言葉も、昇る朝陽も、ぜんぶ……


この関係が潰れたら、朝くんを見るのは、これで最後かもしれない。

目に焼き付けるように、彼の綺麗な顔を、じっと見つめるようにした。
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