まどろみ3秒前
「何でもかんでも笑うとことか」
「……別に、今は頑張って笑ってるだけだから。…私ね、後悔、してるんだ」
後悔?母親はこくんと頷く。
「昨日ね。約3ヶ月ぶりに起きてたらしいんだけど、私には知らせてくれなかった」
母親は、彼女の肩を掴んで揺らす。彼女はどんなに揺らされても、目を覚まさない。息もしている。
今、目の前にいるのに、会えない。
これが、彼女の病気だった。
「最初は、冗談めかして笑ってたの。どんだけ寝坊してるの翠ぃ~って」
母親は、「でも、」と続ける。
「それから、何時間も起きなくなっていって。本当に、肩を揺らしても声をかけてもどんなに水をかけても、起きない。多分、死ぬ状況であっても、彼女の体は、絶対に起きない。…笑い事じゃ、なくなっていった」
笑い事じゃない。彼女は笑ってばかりだった。きっと、皆に、笑い事として受け入れてほしかったんだろうな、なんて思える。
「翠に、心配の表情を見せつけすぎた。折角この瞬間を生きてたんだから、もっと、笑って、楽しませてあげるべきだった…」
「あー、大丈夫ですよ」
えっ?と母親は俺の方を見た。
「俺が、楽しませてあげてたんで。きっと、惜しいくらいの時間にできたはずだから」
母親はふふ、とまたおかしそうに笑う。