まどろみ3秒前
「それに、惜しかったんだと思います。起きたのに呼ばなかったのは、別にあなたのことが嫌いとかじゃなくて。会ってしまうと、眠る時に怖くなって、苦しくなるから」
「…そう、かもしれないね」
「実は俺、昨日に会ったんです。でも、偶然会っただけで。他の人とも誰にも会わないつもりで、また眠ろうとしてたんでしょーね」
「そう、翠と会ったんだねぇ…」
母親は、優しく彼女の頭を撫でる。
「あなたのお名前は?」
「…朝、です」
この名前が嫌い。だから、言うのもあまり好きじゃないんだけど。
でも、彼女の前なら、きっと自信を持ってこの名前を好きだと、言える気がする。
「朝くんね。いい名前だ」
母親は、彼女を見つめながら嬉しそうに笑った。
゜
゜
゜
夏の終盤。どこか肌寒く感じてきた。
彼女に会えなくて、息苦しく感じる。夏とか秋とか、空とかキンモクセイとか、どうだっていい。あの人と見るから、価値があった。
あの夜以来、相変わらず、目は瞑るだけで機能せず、眠れない毎日が続く。長い1日をずっと生きてる気分で吐き気がする。
清々しい空気が通った曇り空の日。午後6時半頃。
「…えっ?」
慣れた手付きで病室の扉を開けると、意外な人物が目に飛び込んできた。