まどろみ3秒前

まどろみ3秒前


2度目の春が来た。


桜は咲き誇り、公園の敷地内は桜の絨毯のようになっている。温かい春風が頬を通りすぎていき、桜が舞い落ちてる。

何度も見た、1年前に彼女と撮った写真。その写真と見比べて今、桜を感じるけれど、去年の桜の方が、綺麗だった気がする。


―今日は、高校の卒業式があった。


あまり実感がないまま、気が付けば、卒業証書が手に握られてた。写真を撮る生徒たち、春風と共に泣く泣く生徒たち。

もうこの学校には来ない、先生たちとも会わない、新しい1歩を歩き出さないといけない…、どこか不安で、それでも無事に卒業できて嬉しくて。 

そんな寂しげな気持ちは、自分にだって、少しはあった。でも、本当に少しだけ。

彼女が隣にいないから。彼女に会えないから。そんな言い訳をして、俺は今日も、追い付けてそうで、全く追い付けずにいた。


―また、今日も気付いたら朝が来てた。夜が明けて、今日も、嫌にでも見る朝陽を見た。

朝陽は、いつもと同じだった。それでも、今日の朝陽はどこか温かく感じた。それは卒業式だからなのかは、よくわからない。

空気は、青空の清々しい匂いがした。


俺の朝は、いつ昇ってくれるんだろうな。

だから、ずっと俺は…



「夜野くぅん!!!」


風と共に、強い香水の匂いで我に返った。後ろを振り返ると、同じクラスの女子だった。

後ろの方には、こちらをニヤニヤと気持ち悪い表情で見守る女子、いや男子たちもいた。
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