まどろみ3秒前


「夜野くん、?ねぇ、どーしたの?」


気付けば、足を止めていた。


足、そして手すら震える。いつもと違う、病院の空気、悪い予感…、未来も見えないくせに予感なんか起こっても仕方ないのに…

震える手を隠しながら、何も知らずに心配してくれる柚に「ごめん」とだけ声をかけた。


―大丈夫、大丈夫。


自分は何を恐れているのかもわかんないくせに怖がったりして、ほんと、バカみたい。いつもみたいに会いに行くだけでしょ?


俺は、今日も彼女に会いに行く。彼女は、目の前にいるのに会えない病気だった。

それでもいい。

彼女が望んでなくても行くから。


もし、何10年と、終わりが見えないくらいに、彼女が長く眠っても。もし、俺がこの病気で体や精神がはち切れて崩壊しても。


彼女がまた、俺だけを忘れてしまっても。

俺が、彼女の秘めている瞳の色を忘れても。


―俺は、彼女のことが好きだから。


ちゃんと一緒に生きて笑って、最期に彼女と一緒に死ぬのが夢。何も変わらない、好き勝手な夢。でも、その夢を諦めない。


―窓からはピンク色の桜が見えた。もうすぐ、あの蒸し暑くて、うざったるい夏が来るらしい。どこか他人事になってしまった。


彼女が眠って、もうすぐ1年になる。同じ体制で同じ表情で、まるで浅いまどろみのように。彼女はベッドを拠点に眠っている。

秘めた瞼を開いたとき、彼女は、どんな目をするんだろう。俺は全く想像できずにいる。


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