まどろみ3秒前
なんなんだろう。自分のことじゃないのに、こんなにもこんなにも、怖くて痛くて。
「今、緊急だから対処はしてるんだけど、どうにもならないって感じらしくて。もう急速に、体が死に向かってる。…だからね、もう、見届けてあげるしかないんだよ」
母親は、死んだような目で薄く笑みを浮かべていた。彼女の瞳と重なる。
触れてしまえば、崩壊してしまいそうな、あの橋を連想されるような、…でも、そんな瞳に、吸い込まれたこと。
「…嫌です」
最期が、俺との会話?
―また、朝日、見よう?
バカみたいに笑って泣いて目を瞑りながら、彼女は、眠りにつく最後に、そう言ってた。
小さい頃から朝陽を見れなかった彼女に、無理させて朝まで付き合ってもらって。
朝陽は雨で見れないか、晴れて見れるかって、駆け引きして。…予想もしなかった空だった。その空は、今も脳裏に焼き付いてる。
雨は降り続ける。
それでも、見ようと思えば晴れは見えた。
朝は昇りながらも、泣いていた。
俺が見る当たり前の朝陽を、彼女は、あんなにも綺麗で優しくて、生きる瞳で、見てた。
初めて、あんなにも綺麗な目で朝を見る人と、あんなにも綺麗な空に出会った。