まどろみ3秒前


「何する気なのかな?説明、してくれる?」


医者は、どこか怒り口調だった。


「天塔さんを起こすつもり?それはもう、無理だよ。奇跡だし、今はそれどころじゃ。それに、手遅れだ。今起こしても、…もう」

「起きます。奇跡だけど、奇跡じゃないんで」


どういうこと?医者は呆れたような声を出す。俺は、彼女を見つめながら言った。


「自分の心から愛する、安心する人が運命の人になる。…だから、奇跡は奇跡じゃない。自分が、思えるかどうかの奇跡なんですよ」


俺は彼女を好きになって知った。奇跡は奇跡じゃない。自分が、思えるかどうかだから。

医者は、遠い目をしていた。ふっと笑って「あーあ、好きにしろよ」と呟いて、病室の扉を開ける。


「僕の方が、間違ってたみたいだな」


―ガチャン


医者は、病室を出た。扉が閉まるのが、妙に遅く、スローモーションに感じた。


あんなにも人がいっぱいいっぱいだった病室は、俺と彼女の、ふたりきりになった。

雨の音や雨の匂いがする。閉じた窓には、雨粒の模様ができていた。空は暗く、急に雨は降り始めたようで、とても肌寒い。

ズキン、と強い頭痛を抑える。

彼女を見やる。

瞼を閉じて、まだ、僅かに体を揺らす彼女。眠ったときから変わらない表情と体制。


―もし、起こすことができなかったら?


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