まどろみ3秒前
どことなく、安心する。
あなたの声を聞くと、心が安らぐ。
低くて、雨みたいに降り落ちる、優しくて、私が求める、世界で1番、好きな声。
医者が言っていた、8億人分の1人。
それは別に、運命の人ってわけじゃない。自分が、運命と思えるかどうか、安心できるかどうかだった。
ほんとは、あの橋で出会った時から好きだった。どんどん、好きになっていった。
おはよってかけてくれる言葉の優しさも、見せてくれた朝陽も、あの優しい笑い方も、私のために怒ってくれることも、雨の音を、あんなにも綺麗な顔で聞く彼も……
私は、夢の中にいた。
何もない、水の中に沈んでいた。
ここは、私の、まどろみの世界。
「そこにいるの、…やっぱり朝くん?」
私は沈んでいく。
気配はする。
いつもと同じだ、霞んでいて姿が見えない。
いや、いつもと違う。誰かの姿は、見えた。
「っあ……」
どうして、驚くんだろう。
私の予想していた人は、当たっていたのに。
だって、泣きたくなるほど、優しい顔をしていたから。目を細めて、私を見つめていたから。
一緒に沈んでいく。深い深い先の見えない暗闇へ、どこまでも、どこまでも。
真っ暗闇で息ができなかった深海の世界には、優しい光が差していた。その光を手で掴もうとして、空を切った。
―その瞬間、息ができなくなる。
「っぅぐ…」
まるで、水の中にいるみたいだった。