まどろみ3秒前
「おはよ」
誰の、声だろう。優しい、優しい声がする。
まだ、私は夢の中にいるんだろうか。
「ほら、起きて」
誰かが、私に声をかけて肩を揺らす。
誰かが、私を起こしてくる。
この夢は、見たことあるなぁ。
あんまり声は覚えていないけど、多分、男の人で。男の人と寝てるみたいな気持ち悪い夢、私って奴は、ほんと何回見てんだ?
僅かに記憶のある夢と、重なる。
―落とした瞼を、掬い上げるように開けた。
ぼやけていた視界は、徐々に鮮明になっていく。真っ白な視界の中には、誰かがいた。
「あー…起きて…くれた……」
えっ?
誰かは、その場で泣き崩れる。顔は見えない、でも、むせび泣く彼の声が聞こえた。
大丈夫、ですか?何があったんですか?怖く、ないですか…?悲しくないですか…?
声が出せない。それでも、私は声を出した。声じゃなくていい、ただ、伝えられれば。
「っ…うげほっげほっけほ!!!」
苦しい、咳が止まらなくなる。まるで、さっきまで溺れてたみたいに、肺が潰れそうだ。
それでも、目を開いてちゃんと見た。
真っ赤っ赤に腫れた彼の、優しい茶色い目を。もう、そらしたりしたくなかった。
茶色い彼の目には、私だけが映っている。私だけ、というのも、私がそう見えていただけなのかもしれない。