まどろみ3秒前

「自分が思う運命の人が、運命の人になるんです。その人が、病気を治せるんです」


どうしてこんなに堂々と言える?それはきっと、私と朝くんしか言えないことだから。


「先生の奥さんも、私と同じ病気の人でしょ?あなたのことを、運命の人だ、大好きだ、って思えたから、声を聞くだけで、体が目覚められるんだと思います。だから、奇跡じゃなくて運命でもない」

「じゃあ、一体なんなんだよ…?」

「ただ、単純な、愛です」


ただ、私が彼を好きなように。

それはそれは単純で、尊いものだった。

医者は、「そうか、さっきも同じことを聞いたな」なんてなんだか嬉しそうだった。


「…うん、僕自身からしても、大切な人だ。あの人が病気なんて患ってなくても、僕は、あの人と結婚するつもりだった。…ありがとう。もっともっと、この病気を研究する」


薬指につけた指輪がキラリと輝きを放った。

医者の遠くを見る目は、もうずっと、近くを見ていた。








真っ暗な、深夜だった。

1人、また1人と病室から出ていく。


東花には、卒業式でもらった花束をもらった。別れを告げ、気付けば、パンパンだった病室には2人きりになっていた。



酸素ボンベ外してなにするのかと思ったよ、無事でよかった、起きてくれてありがとう、また連絡ちょうだいね、またね、…

生きていなければもらえなかった、優しい言葉を沢山もらえた。酸素ボンベを外して皆を出ていかせたのは、だいぶ衝撃的だったけど。

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