まどろみ3秒前
「ねぇ、どうやって私を起こした?」
いたずらっぽく聞いてみることにした。
「んー、自分でもわかってるんじゃない?」
恥ずかしい顔をする相手の顔が浮かんでいたけれど、そう簡単には思い通りにいかない。
逆にいたずらっぽい顔をされてしまい、今度は、自分が照れ臭く頷くことになった。
「…記憶、めっちゃある。寝る前に言った言葉も外で雨が降ってたことも、覚えてる」
「ふうん?」
「実感もあるんだよね。1年経ったんだなっていう実感が、体にちゃんと焼き付いてて。…でも、髪型ってだけで、朝くんは変わってなさそうで、よかった、です」
どうしてだろう。
言いたいことは山ほど天ほどあるのに、言葉が詰まって、それくらいしか言えない。
それでも、十分かな。
「でも…、1年も、無駄にしちゃったなぁ。あの入院してた男の子もどうなったのやら」
「…今日お母さんと歩いてたから、多分、退院できたんだと思うけど」
「え、今日?すごい、それはよかった」
よかった、とは思うけど、もう一生、会えないんだろうな。
そう思うと、どこか、寂しい。あの一瞬で出会った人でも、一生となれば寂しく感じる。
まあ、当の本人は私のことなんか一切覚えてないんだろうけどな。
「今日、卒業式か。…最後まで青春ってなんなのかわかんなかったし、思い出もないし、高校の記憶があんまりない。…だから、ほんとは、ちょっとだけ、…寂しいや」
正直に言おうと思った。
私は、寂しい。言葉がほしい。朝くんはきっと、最高の言葉で慰めてくれる。