まどろみ3秒前
「じゃあ俺と、また1年分、生きよ?」
ていうか、と朝くんは息を吐きながら続ける。
「たったの1年なのに。そんなに気負わないでいいって。1年とか一瞬だし、別に俺も青春とか興味ないまま終わったし」
えーそういうもん?なんて笑ってしまった。
いつだってほしい言葉をくれる朝くんが、そう言ってくれたから、私は頷くことができた。
「雨、降り止まない」
ポツリと、私は呟いた。
止んだと思った雨は、また、降り始めたみたいだった。私にはいつだって、降り止まない雨が降っている。でも、止まない雨でいい。
「止んでほしい?」
「…えっ」
「俺は、止まないでって願ってたけど」
何言ってるの、と笑おうとしたが、彼の表情を見て、やめてしまった。
「…雨は、光を求めて進んでいられる。だから、私は、雨が好き、ほんと、大好き」
そう、私は雨が好きなんだ。
朝くんに言った理由もあるけど、それよりも、もっともっと、大切な理由は、ある。
その理由は、朝くんと聞く雨の音と、雨の匂いが、堪らなく好きだからなんだよ。
今も、雨粒ひとつひとつが降り落ちる瞬間が、堪らなく、尊くて、心地よくて。
降り止まない雨で、よかった。
そして、同時に思う。
「朝くんで、よかった」
伝えたいことを伝えるために、数ある言葉からこれを選んだ理由はない。
ただ、思い付いたから。
笑ってみると、朝くんはまたじっと私を見つめる。思わず、私は目をそらして聞いた。
「えっと、なんで、そんなに見てくる?なんかその、怖いんですけど」
髪はボサボサ、目の下にくまは絶対あるだろうし、自分の顔はめちゃくちゃ不細工だと思う。あまり見ないでほしい、が本音だ。
「…翠が、瞼開いて起きてくれてることがなんか信じれなくて……、ううん、そうだけど、違うな、嘘ついたわ」
ふっと笑ってから、優しい目付きを私に向ける。
気付けば翠、と呼ばれているのが少し照れ臭い。寝る前にそう言われたっけ?肝心なそれだけは、記憶がない。