まどろみ3秒前
「…そーゆうなんでか自信ないとこ、眠る前と何も変わってない」
朝くんは、どこか目をそらして頬を染めた。
「…眠る前、翠が、俺に何してきたか覚えてんの?」
自分でも少し顔が熱くなるのを感じた。熱でもあるのだろうか。
「え、う、でも、あれって朝くんが……」
「は?抜け駆けさせてって少女漫画の主人公みたいにやってきたのはどこのどいつ?」
「あ、す、すいません…私か…」
ほんと、肝心なとこは記憶がない。
しゅんと下を向いていると、わしゃわしゃと髪を撫でられて、思わず肩が上がる。
「だから、俺は翠のこと好きなんだって」
「…好きです、私も、はい」
日本語とは難しいものだ。それに、その時の気持ちによって言葉も変わってしまう。
「あーかわいすぎる」なんて甘え声で言われながら、髪を今度は優しく撫でられる。
「大丈夫、大丈夫。そのままでいいから」
優しい声を聞くと、体の痛みも、更にひいていった。窓辺には、花瓶に生けた四つ葉のクローバーがあることに気が付いた。
寝る前の私は、やけくそになってたんだ。
―四つ葉を誰かにあげて幸せになって。
そんなこと言ってごめんなさい、なんて今は言えないけれど、思っている。でも、朝くんは優しいから、きっと許してくれる。
実は、眠っている時の記憶がうっすらある。
誰かが、私に精一杯言葉の雨をかけていて。その雨は、とても止まない強い雨で。