まどろみ3秒前
体が、瞑った瞼が、覚えていた。
私も朝くんも言わないけれど、毎日毎日、ここに来てくれてたんだよね、朝くんは。
どうして、こんなに愛している自信を持てずにいるんだろう。私に精一杯の時間を、瞬間を、くれたはすなのに。
私のために時間をくれて……
「ありがと」
もう、ごめんなんて言わなかった。
雨の音がする。
精一杯に、夏の匂いがする。
その夏の匂いは、寂しくも感じるし、どこか期待する気持ちも感じていた。不思議だ、こんなにも夏への思いって、変わるんだな。
「朝陽、昇った気する」
ポツリと雨が降るように、朝くんは言った。
窓を見やる。まだ外は真っ暗で、勿論、朝陽なんて昇ってないどころか何も見えない。
窓に手をやると吸い込まれてしまいそうなくらいに深海のように暗くて、酷い雨の音がした。
私は思った。
あなたの中の朝陽って、なんなんですか?
「まあ、翠のことなんだけど」
心を読んだような透き通った目に、面白くもないのに、「私も」と笑ってしまった。
少しずつでいいよね。追い付けなくたって、自分のペースで、私は進んでいきたいから。