まどろみ3秒前

それからのお話




「ほら、起きて」



誰かの声がする。

その声が耳に入って、私は今日も瞼を開く。



「おはよ」



それから誰かは、私の寝起き顔を見て笑う。


でも決してバカにしてるんじゃなくて、

優しく笑うんだ。

まあ、笑われてるのは変わりないけど。


「…んっ…ゆめ……?」


ぼやける視界に、目を擦る。


「夢じゃない、現実」

「ほぇ…?」

「どしたの、寝ぼけすぎなんだけど」


ため息混じりに、でもどこか愛おしそうに私を見つめる彼の目に、吸い込まれそうになる。


「ほら、早く起きて。もう朝ですよ」


そう言って、私の体を揺らす。

別に直りもしないのに、というかもっと酷くなるのに、「寝癖すごいな」なんて言って私の髪をくしゃくしゃに撫でてくる。

これは、夢なんかじゃなかった。

昔、毎日のように見ていたこの夢は、正夢だったんだな、と今更になって思う。


「あさく―」


唐突に、唇が近付いてきて肩がぴくりと上がる。

目が覚めると必ずやられるルーティーン化してるのに、全然、慣れることができない。


……今日のは、どこか長く感じた。


たまに舌が当たって、思わず肩がぴくりとする。でもそれは、相手の方も同じだった。

ある意味、息ができなくて溺れてしまう。


「っぁはぁ…っちょっと…長いんですが」

「えっ?なに、聞こえないんだけど」


こんなに近くにいて聞こえないわけないのに、本当に最低な奴だ。

それでも、ふふ、という優しい笑い方に完全に油断した。顎を指で掴んで、離さないようにする、彼の巧妙な手口には逆らえない。

また唇が近付いてくる。桜色の唇に、今日も、何も抵抗できずにいた。
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