まどろみ3秒前
「朝くん、昨日って眠れた?」
一応毎朝聞くようにはしている。それでも決まって彼は、頷いてこう言ってくれる。
「眠れた。ありがとう」
私は決まって首を横に振る。
「ありがとうとか、眠れただけなのにやめてよ」
決まって私はそう言って笑う。でも、彼はいつだって「だって、言いたいから」と言うんだ。
ありがとうなんて、当たり前のことに使うことじゃないんだよ。
それでも、当たり前のありがとうを大切に使いたい彼のことが、私は、好きだ。いつも言われる度に、そう噛み締めている。
まあそんなこと、恥ずかしくて言えないけど。
―私の顔をじろじろ見てくることに気付いた。
「…なーんか、あの時めっちゃ痩せてたけど、いい感じになってきてる」
「…いい感じってなに、なんですか?思いっきりお腹蹴りますよ?いい?」
あ怒ってる、なんて面白そうに笑って「ごめんって」と彼は私の頭を撫でている。
「でも、ちゃんと毎朝起きれてるのに、目の下のくまだけは全然治ってない」
「っうわ酷い…気にしてんのに…」
さっきから酷いことばっかり言ってくる。
まあ、本音ばっかりじゃなくて冗談もあるんだろうけど…、ん、いや、本音?
すねたように彼に背中を向けると、ぎゅっと後ろから抱き締められる。何秒か静止してしまい、我に返って振り返った。
すると、目の下に指で触れられる。
イケメンボイス、とやらの低い声を出せる彼は、どこか色気感のある声を出して「ごめんごめん、怒んないで」とせがんでくる。
「俺、目の下のくまほんと最高に好き。だから、そのまんまでいてほしいんだけど」
互いに息を感じる。想像以上に顔が近い。
朝から、心臓がうるさくなる。
本当に彼の言葉のせいで、心臓に悪い。
「ふふ。なに、俺に惚れた?」
「…もう、惚れてます」
彼は、窓から入る明るい朝陽を浴びながら、変わらない笑顔で優しく笑っていた。
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