まどろみ3秒前
「死ぬまで、尽します」
「いや不器用。ロマンチックに、一緒にいるよ、とか普通に答えてほしかったんだけど」
笑いながら軽くデコピンされる。痛いけど、どこか、優しい。そのデコピンすら、尊い。
今この瞬間も、優しい茶色い目に、吸い込まれてしまう。何度も何度も、私が欲しい言葉をくれて、私の名前を呼んでくれる人。
「朝くんが、好き、です。私を見つけてくれて、ありがとう。……私、朝くんのせいで、死にたくなくなっちゃった。死にたくない」
死にたくないって、胸を張って言えるほど人間は強くない。それでも今の私は、言わなければならないと思った。いや、言えたんだ。
今度は、私が朝くんの肩に顔を預ける。
彼の肩が少し上がる。朝くんは、強がりだ。
本当は、朝くんだって慣れてないくせに。
私はそうとは口にはせず、笑っていた。
「俺も、翠と死にたくなってよかった。死にたくないから、俺だって」
彼は、いたずらっぽくふっと笑った。
ああ、花火の音が鳴る。
どうか、鳴りやまないで。
暗闇に沈んだ深海で、何も感じなくなった私の胸には、今には大きく大きく、咲いている花火がある。そして、ある光の朝陽がある。
「花火って、こんな綺麗だったっけ」
「私がいるから、じゃない?」
気付いたら、彼の笑い方が移ったらしい。
私はいたずらっぽくふっと笑っている。
「おやすみ」
まだ、寝る時間じゃないでしょう?
そう言おうとして、私は息を飲んだ。
落ちてくる、桜色の唇。
花火じゃない。雷でも雨でもない。
ただ、私の大好きな、大切な、人である。
あなたの言う、おはよが好きだった。
同じように、おやすみも、大好きなんだよ。
「愛してる」
「私も、…愛してる」
雨のように落ちてくるその唇を、
綺麗な空と、夜に咲き誇る花の下で、
ただ、私は精一杯に受け止めていた。
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