まどろみ3秒前

もう一度、私は机の中に押し込んだ紙切れを取り出す。くしゃくしゃになってしまっていて、紙を伸ばして、元通りにさせる。

周りを見渡し、誰も私を見ていないことを確認して、その言葉を静かに、じっと見つめた。



『おちょこ橋 待ってる』



綺麗な字で、書かれた言葉。

何度見ても、意味がわからない。おちょこ橋とは、どこのことだろう。

生まれてからこの町に住んでいるが、そんな子供が付けたみたいな名前知らないし。


誰かのイタズラ、だろうか。なら、もっと面白い反応を私がすればよかったのか?

いや、これがいじめ、というものかもしれない。なら、私はこれからいじめられるのか?


いやでも、話しかけても無視されたり陰口言われて私のことを会話にされるよりは、堂々といじめられる方が、マシか。

立ち上がって、私は何も入っていないスカートのポケットに紙切れを詰め込んだ。


「どうでもいいや」


ぽつりと呟いて、窓の先の雨を目で追った。

そんな、呑気な気持ちだった。








あっという間に下校時刻になった。


「「「「「さようならー」」」」」


四十人近くいるはずの教室から出てきたのは、数人のさようならだけだった。

私は流れのままに教室を出る。

ザーザーと止まることなく雨が降っている。長年愛用の赤色の傘をさして校門を出た。


「翠ー!!」


聞き覚えのある明るい声に振り返ると、こちらに駆け寄って来る私の友達がいた。
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