まどろみ3秒前

道を別れて、私は家への帰り道を歩く。


ポツポツと傘に当たり跳ねる雨の音。雨は少し止んできたようだ。この雨の音、匂い、雨の日は皆嫌がるけど、私は雨が好きだ。

溜まった水溜まりに思い切り入ってみたいという好奇心を消して、家へひとり進んだ。

今日は何月何日何曜日か、時間までも知りたくなかった。私は、太陽と時間が嫌いだ。


「ただいまー」


平然を偽って私は扉を開ける。

防犯対策にもなるらしいので、誰もいなくても、必ずただいまは言うと決めている。今でもそれを覆すことはなかった。


「おかえりなさい!!翠、どうだった?今日も学校は、楽しかった?」


お母さんは、心配する表情を浮かべて二階から階段を下ってまで来てくれる。心配する表情も、私にはもう見慣れてしまった。


「あー普通にだいじょーぶ!楽しかったよぉ」

「そう。よかった」


笑みを浮かべると、お母さんは、安心する表情を浮かべて二階へ戻っていった。


「あ、おかえり姉ちゃん」


弟の累《るい》が部屋から顔を出した。いつまでも可愛らしく、優しい私の弟。

最低限の会話しかしてこなかったのに、最近は私によく接してくれる。こんな私を心配してくれているのかな、と思うと胸が温かくなる反面、どこか息苦しくもあった。
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