私と彼の溺愛練習帳
「仕事、やめてもいいよ。あなたを養えるくらいは稼いでるから」
「ダメよ」
 雪音は焦った。ただでさえ甘えているのに、これ以上は。

「結婚したら僕に養われてくれる?」
「なに言ってるの!」
「ずっと一緒にいたい。そばにいてほしい」
 冗談のように思えず、雪音は目をそらした。
「まだ早かったかな。ごめん」
 閃理はポケットから小さな包みを取り出して雪音に見せた。

「あなたにプレゼント」
「いつの間に?」
「こっそりと」
 閃理はふんわりと笑う。

「昇仙峡は水晶の産地なんだよ。閉山したから売られてるのは外国産だったりするけど、研磨と加工は世界トップレベルなんだって」
「知らなかったわ」

 雪音は受け取り、封を開けた。中にはピンクのベロアのケースがあった。細長い六角形をしていた。それを開けると、中にはピアスが入っていた。

 雪の結晶のピアスだった。中心部に水晶があり、六本の枝が伸びた先にも水晶の粒が煌めいている。
「きれい……」

「安直だけど名前にちなんで。これは樹枝六花(じゅしろっか)かな。雪の結晶は大きくわけて八種類、細かく分けると百種類以上もあるらしい」
「詳しいのね」

「仕事で調べたんだ」
 ドローンアーティストは撮影して編集する技術があればいいのかと思っていたから、驚いた。
「ありがとう。でも私、ピアスあけてないの」
「あ……イヤリングを買ったつもりだった」
「あなたでも間違えることあるのね」

 惣太からはプレゼントをもらったことはなかった。雪音が断るからだ。どうせ愛鈴咲に見つかって取り上げられるか捨てられるかなので、もらう気になれなかったのだ。

 今なら、誰にも取り上げられることはない。
 雪音はピアスを抱きしめた。
「うれしい。私だけのものだわ」
 閃理は雪音を抱きしめた。
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