私と彼の溺愛練習帳
「三月のドローンイベントに向けて、これから本格的に忙しくなる。今までみたいに一緒にいられない。でかけることも増える。帰って来たときに僕がいなくても心配しないでね」
「でも、帰ってくるのよね?」
「もちろん」
 閃理の答えを聞いて、雪音はほっとした。と同時に、自分に驚く。

 もうすっかりこの家に馴染んでしまっている。彼のいる、その隣に。
 閃理は雪音の頭を撫でた。
 お返しに、雪音は手を伸ばして、彼の頭をそっと撫でた。
 閃理はふんわり笑って、雪音の額に口づけた。



 宣言通り、閃理は外出が増えた。
「打ち合わせなんてリモートでできるのに。現地で確認があるならわかるんだけど」
 閃理は愚痴をこぼした。

 閃理は移動する時間が惜しいようだった。
 いろんな動画の編集を同時進行していた。作業に行き詰まったら別の動画を編集し、思い付いたことがあれば戻ったりするらしい。
 雪音は彼の邪魔にならないように気をつけた。

 彼のココアが飲めなくなるのが、少しさみしかった。買って来たほうとうを食べるのはまだ先になりそうだ、と思った。



 仕事を終え、いつものようにイルミネーションされた道を歩いていると、閃理がタクシーの後部座席から降りるのが見えた。その日は早番で、だから退社も早かった。

 閃理さんだ!
 雪音は顔を輝かせ、駆けだそうとした。
 直後、足を止めた。

 降りた閃理が反対側に周り、後部座席のドアを開けた。
 きれいな両足がスッと現れた。華奢なヒールを履いたすらりとした足だ。
 続いて現れたのは背の高い金髪の女性だった。日本人ではないように見えた。イルミネーションを受けて金髪がきらめく。遠めに見ても美人だった。

 彼女はそのまま閃理に抱き着く。
 どきん、と胸が鳴った。
 閃理は彼女の頬に口づけた……ように見えた。

 とっさに雪音は踵を返した。
 いつだったか、彼のスマホに外国の女性から電話がきたのを思い出す。
 きっとあの人だ、と雪音は思った。
 それ以上は考えられず、ただただ歩き回った。
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