私と彼の溺愛練習帳
 翌日の夕食後、一緒にソファに座ってココアを飲んでいるときに彼は言った。
「なにか隠してるよね、雪音さん」
 どきっとした。

「なにもないよ」
「嘘。昨日からそわそわと挙動不審」
 雪音は観念した。

「昨日、閃理さんが女性と車から降りるのを見たの」
「……その人はただの知人」
 はっきりと否定され、雪音はホッとした。

「浮気を疑われたのかな」
 雪音はうつむく。疑ったのはその通りだが、別の不安を口にした。

「もっと若い人のほうがいいのかな、って」
「また歳の話?」
「だって……」
「年齢なんて関係ないよ」
 雪音は窺うように彼を見る。

「僕、言葉は通じても話の通じない人と話して疲れてるの。あなたまで話が通じない人にならないで」
「どういうこと?」

「僕は若い女性じゃなくて、雪音さんが好きなの。いつになったらわかってくれるの?」
「え?」
 閃理が目を吊り上げている。
 そんな彼を見るのは初めてで、雪音は戸惑いを深くした。

「僕のこと好き?」
「……うん」
「言葉で言って」
「好きよ」
「本当に?」
「言わせておいて疑うの?」

「僕が言わせたからでしょう? 本心じゃないかもしれない」
「矛盾してるわ」
「わからせたい。僕がどれだけあなたを好きか」
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