私と彼の溺愛練習帳
 閃理が迫って来る。避けようとした雪音はソファにずるずると押し倒される形になった。
 いつもと何かが違う。
 雪音は怖くなった。
「待って」
「待てない」
 閃理は雪音の唇を塞ぐ。
 いつもの優しいキスではなかった。なにかに苛立ち、荒々しく雪音を奪おうとする。

 雪音は必死に彼を押し返した。
 以前、彼に大丈夫だよ、とは伝えた。
 だけど、これはなにかが違う。

「やめて!」
 唇が離れた瞬間、雪音は叫ぶ。
 閃理ははっとして、体を離した。
「……ごめん」
 閃理は謝り、仕事部屋に戻った。



 雪音はしばらくしてからココアを淹れて閃理の部屋へ行った。
 ドアをノックすると、どうぞ、と返って来た。
「ココア淹れたけど、飲む?」
「ありがとう。でも手ぶらだね」
「またこぼすといけないからリビングに置いてあるの」
 恥ずかしそうに言うと、閃理はふんわりと笑った。

「雪音さんかわいい」
 さらに恥ずかしくなる。が、いつもの彼が戻ってきたようで、ほっとした。
 閃理は立ち上がり、雪音を抱きしめた。
「さっきはごめんね」
「私こそ、ごめん」
 雪音は自分から彼の頬に口づける。

「ちゃんと、好きだから」
 弱々しい声に、閃理はまた雪音をぎゅっと抱きしめた。
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