私と彼の溺愛練習帳
その日の夜、雪音はなかなか寝付けなかった。好きってわからせたい。そう言われるのは、ただ好きだと言われるよりも大きく深く愛されている気がした。
乱暴な物言いが、かえって彼の本心のように思えた。
じんわりと、染み渡るように心に広がっていく。
気持ちに応えたい。
せめて私にできることを、と思った。
だから翌日から忙しい閃理に代わって雪音がごはんを作った。
閃理は喜んで食べてくれて、うれしかった。
叔母たちはなにを作っても文句ばかりだった。毎回だから、精神的にくるものがあった。
就職先の人に「それはおかしい」と指摘されなければ、あのまま叔母たちのサンドバックになっていただろう。
掃除をしても洗い物をしても、なにをしても閃理はお礼を言ってくれる。
それがうれしかった。
数日後、雪音は閃理に誘われた。
「ドローンのダンス、見に行かない?」
「ドローンが踊るの? どうやって?」
閃理はふんわりと笑う。
「ダンサーと一緒に踊るんだよ」
「危なくないの?」
「ガードのついたものを使うし、障害物センサーがあるし、プログラム通りに動くから基本的には大丈夫かな」
「閃理さんが操縦するの?」
「今回はプログラミングで動かすんだよ」
「なんでもできるのね」
雪音が感心すると、閃理はまたふんわりと笑った。
翌日、雪音が休みの日に、一緒に見に行った。
さほど大きくない場所だった。ステージは小さく、客席にはパイプ椅子が詰め込まれている。
「こういうところ、初めて」
「小さな劇団がよくお芝居をやってるらしいよ」
雪音は観劇に行ったことがない。学校に来た劇団のお芝居を体育館で見たことはあるし、学校行事で市民会館へ行って合唱を見たことがある。演劇などはああいう大きな会場でやるものだと思っていた。だからビルの一角の、教室ほどのスペースの会場は新鮮だった。
どきどきして開幕を待った。観客が増えると隣の人と肩が触れ合いそうだった。
開演時刻を迎えると会場が真っ暗になり、音楽が大音量で流れ始めた。
徐々にボリュームが下がり、スポットライトが中心に当たる。