私と彼の溺愛練習帳
「差し入れありがとうございました!」
「見てくれたんですね!」
「どうでしたか!?」
 一斉に若い女性に取り囲まれる。

「素晴らしいダンスでしたよ」
 閃理はふんわりと微笑して答える。
 気がつけば雪音ははじきだされるようにして廊下にいた。
 開けっ放しのドアから閃理の背が見える。若い女性たちに囲まれて、雪音はもう声をかけられない。

「ここは関係者以外は立入禁止よ」
 後ろからきつい女性の声がかけられた。
 振り返ると、三幕目にドローンと踊った女性が立っていた。ショートカットのきりっとした美人だ。舞台のための濃いメイクが美人さを際立てていた。

「あの……」
 どう説明したらいいんだろう。
 女性は答えを待たず、目の前でぱたんとドアを閉じた。部屋の光が遮断され、薄暗い廊下に雪音は一人で立ち尽くす。
 雪音はうなだれ、とぼとぼと歩き出した。



 ロビーで待っていると、スマホが鳴った。
「雪音さん、どこ?」
 閃理の声がした。
「ロビーにいるよ」
「すぐ行く」
 言って、スマホが切れた。

「ごめん」
 ロビーに来た直後、閃理が謝った。
「あの人たちダンススクールの人で、ドローンダンスの打ち合わせで知り合ったんだ」
「そうなんだね」
 雪音はしょんぼりと答える。

 閃理は雪音を抱きしめた。
「怒ってるよね」
「怒ってないよ」
 雪音は答える。
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