私と彼の溺愛練習帳
「用事って?」
「頼まれて、一緒にドローンを見に来たんだ。舞台演出に使いたいって」
「またドローンでダンスをするの?」
「照明に使いたいんだって。毎回外注すると高いから、自分でなんとかしたいんだって」
 少し離れたところにきつい目の美人が立っていた。ドローンと一緒に自由を謳歌するダンスを踊った女性。鍛えられた肢体はすらりとして、背筋がピンと伸びている。

 ばちっと目があった。敵意のこもる視線に、雪音はすくんだ。会釈もできずに目をそらす。
 閃理は雪音に手を振ってから女性とともに立ち去った。

 完全に負けている。
 二人で並んだ立ち姿はお似合いで、自分など足元にも及ばない。
 自分は隣に並んでも恋人には見えず、お姉さんだと言われた。手を繋いでいたというのに。

 この世の半数は女性だ。彼が女性と一緒にいるからといって気にしていたらきりがない。
 そう思うのに、胸には不安が広がっていった。



 その日、閃理は久しぶりにココアを淹れてくれた。
 一息ついてから、彼は切り出した。
「お母さんのことなんだけど」
「なにかわかったの?」
「名前で検索かけてもなにもヒットしなかった」
「そっか……」
 雪音にはどうしても勇気が出せなかった。だから彼が調べてくれたのだ。

「で、こんなの作ってみた」
 閃理はプリントアウトしたものを雪音に見せた。
「あなたの顔から推測したお母さんの顔。AIも使ったけど、僕は画像作成のプロじゃないから自信ない。似てる?」
「似てない」
 雪音は即答した。

「そっか、ごめん。捨てるね」
 閃理は雪音からそれを受け取ろうとする。が、雪音は離さなかった。
「将来私がこの顔になるか確認するのもいいんじゃない?」
 雪音は自分の発言に驚いた。いつの間にか、彼とずっと一緒にいるつもりになっている。
「いつになるんだろう」
 閃理はふんわりと苦笑した。
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