私と彼の溺愛練習帳
「目元にほくろがあるのに、この画像にはないわ」
 雪音は慌てて話題を画像に戻した。
「ほくろかあ」
 閃理はペンをとってきて雪音に渡した。
「どのへん?」
「このへんに、こんな感じ」
 ほくろを入れると、少しは母に似たように思えた。

「これもいいことノートに書いてもらえる?」
 閃理がたずねる。
「書くよ」
「少し見せてほしいな」
「嫌。日記みたいなものなんだから」
「雪音さんのことはなんでも知りたいのに」
 閃理は甘えるように首筋にキスをした。髪がふわりと頬に触れた。

「くすぐったい」
「ねえ、僕のこと、好き?」
 急にたずねられて、雪音は目をしばたいた。
「……好きよ」
「少し間があった」
「それくらい許して」
 雪音は閃理を抱きしめる。
「許すよ」
 閃理は甘えるように頭をもたせかけてくる。雪音はその頭を撫でた。いつも彼がしてくれるように。優しく、ゆっくりと。

「疲れてるね」
 彼が甘えて来るなんて、よほど疲れているのだろうか。
 抱きしめる、キスをする。それ以外の愛情表現があるといいのに、と思う。それ以外は、やはり体を重ねることになるのだろうか。そうじゃない別の方法があるといいのに。

「最近、疲れる人の対応してて。でも心配しないで。ちゃんとやるから」
 言った直後、スマホが鳴った。
 閃理は顔をしかめてスマホを見て、切った。
「出ないの?」
「出たくない」
 雪音が困惑すると、閃理は彼女にキスをした。

 ごまかすようなキスだ。
 悟ったが、雪音はなにも言わなかった。
< 113 / 192 >

この作品をシェア

pagetop