私と彼の溺愛練習帳
 ドローンに操られるように踊る女性の姿が思い出された。
 閃理がプログラミングし、操るドローン。
 ドローンは踊っているのだろうか。踊らされているのだろうか。
 自分は彼に踊らされているのだろうか。
 あるいは、自分を惨めに苦しめようとするなにかに。
 心を振り回されている姿は、さぞかし滑稽なダンスになっていることだろう。

 唇を離した閃理を見つめる。
 ヘーゼルの瞳が優しく自分を見つめ返している。
 閃理はそんな人じゃない。そんなことをする人なら、ここまでしてくれない。過去のつらさに振り回されて、見間違えたらダメだ。

 彼は自分の隣を帰る場所だと言ってくれた。
 だから、大丈夫。きっと大丈夫。
 雪音は必死に自分に言い聞かせた。



 ソファに座った金髪の女性はスマホを座面に放り投げた。かけた電話は出ずに切られた。
「閃理はなぜ婚約者を放っておけるのかしら」
 彼女はフランス語で呟いた。
 部屋には彼女一人きり。答える者はいない。

「わざわざ辺境に会いに来たのに」
 彼女は立ち上がって窓辺に寄る。
 東京の街並みが広がる。彼女には日本のなにがいいのかわからない。空港に降りた瞬間に魚臭くて驚いた。フランスなら葡萄の香りがするのに。

「彼とフランスに帰ったら、もう二度と来ないわ」
 窓越しに夜空を見上げた。
 部屋の光が反射して、月も星も見えなかった。
 窓に指をそっと当てる。ひんやりした感触が伝わった。

「私の天使……早く閃理からユベールに戻って」
 閃理のやわらかな笑みを思い出し、彼女はため息をついた。
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