私と彼の溺愛練習帳
砂色の髪の男性が女性に近付き、ささやく。女性がうなずくと、男性が雪音にテーブルにつくように言った。
仕方なく、雪音は席に着いた。
ほどなくしてウェイターがコーヒーを運んできて、二人の前に置いて去った。
「どうぞお召し上がりください」
男性が言う。
雪音は答えず、コーヒーにも手を出さなかった。
男性はかまわず続ける。
「こちらはジュスティンヌ・ド・ルフェーブル様。先日フランスから日本においでになりました。私は通訳のブリュノ・ギスタリエです」
雪音は油断なく二人を見る。
ほかの男性たちは部屋の外に出ているから、今は三人だけだ。
電話をするなら今だろうか。閃理に? 警察に?
決められなくて、雪音は膝の上でぎゅっと拳を握った。
「ジュスティンヌ様は貴族で、閃理様の婚約者でいらっしゃいます」
雪音は愕然と彼女を見た。貴族なんていう単語は物語でしか見たことがない。
彼女は無表情で雪音を見返す。左手の薬指には大きなダイヤが光っていた。
「閃理様は本名をユベール様とおっしゃいます。ユベール様がフランスのお生まれであるのはご存じで?」
そんな名前、今まで聞いたことがなかった。
「お母さんがフランスの方だって……」
「フランスの由緒ある貴族の御出身です」
「貴族!?」
「御父君は元華族の血をひいてらっしゃいます」
唖然とした。そんな話も聞いたことがなかった。
「ユベール様の御父君がフランスに撮影旅行にいらっしゃった際にお知り合いになり、ご結婚されました。フランスでなんども受勲された高名な写真家です。その上、華族のお血筋でいらしたのでご両親も結婚をお認めになられました。そうでなければ日本人ごときが由緒あるフランス貴族と結婚などできません」
雪音はむっとしてブリュノを見た。彼は顔色一つ変えずに視線を受け流す。
「ユベール様はお小さい頃からジュスティンヌ様と仲がよろしくていらっしゃいました。そのままご婚約されたのです。これは母君の御遺言でもあります」
雪音は半ば呆然とした。
「閃理さんからそんなこと一度も聞いてません」
ブリュノがそれを訳し、またジュスティンヌがなにかを言った。
仕方なく、雪音は席に着いた。
ほどなくしてウェイターがコーヒーを運んできて、二人の前に置いて去った。
「どうぞお召し上がりください」
男性が言う。
雪音は答えず、コーヒーにも手を出さなかった。
男性はかまわず続ける。
「こちらはジュスティンヌ・ド・ルフェーブル様。先日フランスから日本においでになりました。私は通訳のブリュノ・ギスタリエです」
雪音は油断なく二人を見る。
ほかの男性たちは部屋の外に出ているから、今は三人だけだ。
電話をするなら今だろうか。閃理に? 警察に?
決められなくて、雪音は膝の上でぎゅっと拳を握った。
「ジュスティンヌ様は貴族で、閃理様の婚約者でいらっしゃいます」
雪音は愕然と彼女を見た。貴族なんていう単語は物語でしか見たことがない。
彼女は無表情で雪音を見返す。左手の薬指には大きなダイヤが光っていた。
「閃理様は本名をユベール様とおっしゃいます。ユベール様がフランスのお生まれであるのはご存じで?」
そんな名前、今まで聞いたことがなかった。
「お母さんがフランスの方だって……」
「フランスの由緒ある貴族の御出身です」
「貴族!?」
「御父君は元華族の血をひいてらっしゃいます」
唖然とした。そんな話も聞いたことがなかった。
「ユベール様の御父君がフランスに撮影旅行にいらっしゃった際にお知り合いになり、ご結婚されました。フランスでなんども受勲された高名な写真家です。その上、華族のお血筋でいらしたのでご両親も結婚をお認めになられました。そうでなければ日本人ごときが由緒あるフランス貴族と結婚などできません」
雪音はむっとしてブリュノを見た。彼は顔色一つ変えずに視線を受け流す。
「ユベール様はお小さい頃からジュスティンヌ様と仲がよろしくていらっしゃいました。そのままご婚約されたのです。これは母君の御遺言でもあります」
雪音は半ば呆然とした。
「閃理さんからそんなこと一度も聞いてません」
ブリュノがそれを訳し、またジュスティンヌがなにかを言った。