私と彼の溺愛練習帳
「あなたのことは調べました。ユベール様は母親に捨てられたあなたを放っておけなかっただけでしょう。母君を亡くしておいでですから、同情したのです」

「知った風なこと言わないで!」
 雪音はつい大声を出していた。
 ジュスティンヌがまたなにかを言い、彼がうなずいた。

「彼の遊びに口出しをする気はなかったそうです。が、さすがに妙齢の女性というのはジュスティンヌ様も気にかかったそうです。あなたも結婚はしたいでしょう? 限られた時間を遊びに使う暇はないのでは?」

 雪音は言葉に詰まった。
 彼は遊びだったのだろうか。
 そんなはずはない。彼の愛を信じきれない雪音に怒るくらい、彼は真剣だった。雪音の隣が自分の帰る場所だと言ってくれた。

 だけど、とまた思う。帰るって、どこから?
 雪音は自分を抱きしめるように腕を組んだ。そのまま腕をさする。
「遊びじゃないです」
 雪音は必死に言葉をつなぐ。

「彼にとっては遊びです。あなたは彼と結婚したいと思っているのですか?」
 雪音はひるんだ。
 ずっと一緒にいたいとは思った。だが、イコールで結婚とは結び付かない。少なくとも今はまだ。

「ユベール様の価値をあなたはおわかりですか?」
「物みたいに言わないでください。ユベールじゃなくて閃理さんです」
 彼はそれも翻訳した。聞いたジュスティンヌは冷徹に笑った。優越の笑いだ。雪音が知らないなにもかもを彼女は知っているのだ。

「感じ悪い」
 思わずつぶやいた直後、ジュスティンヌがむっとしたのがわかった。
「ジュスティンヌ様は日本語が達者でいらっしゃいます」
 ブリュノが言う。

「え?」
 それなら通訳をつけている意味って。いや、聞けても話せないのだろうか。が、ならば達者という言い方はしないだろう。

「ジュスティンヌ様はフランスの貴族なのですよ。直接話す価値はあなたにはないのです」
 かちんときた。そんなの失礼すぎる。
 雪音にかまわず、ジュスティンヌはフランス語でなにかを言った。ブリュノがうなずく。
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