私と彼の溺愛練習帳
「雪音さん?」
リビングを見て、彼女の部屋の扉をノックする。返事はなかった。
はっとして玄関に戻る。靴がない。
「仕事……?」
早番にしても、出ていくのが早過ぎる。早番のときは九時くらいに家を出ていた。まだ八時だ。
スマホを取り出す。着信もメッセージもない。
嫌な予感がした。
「きっと、仕事だ」
閃理はぎゅっとスマホを握りしめた。
雪音の働く家電ショップに、閃理は開店と同時に入店した。
あふれる商品もセールを主張するポスターも、なにもかも眼中になかった。
店内を走り、エスカレーターを大股で駆け上がり、二階へ行く。
洗濯機売り場を見回し、見覚えのある顔を見つけた。
「先輩の彼氏さん!」
ぱあっと顔を輝かせ、その人物が寄って来た。
「えっと……」
「平田美和です。先輩の後輩です。って日本語おかしいですね」
えへへ、と美和は笑った。
「雪音さんは?」
聞かれて、美和は首をかしげた。
「聞いてないんですか? 仕事辞めちゃったんですよ」
「え?」
「あれ?」
美和は驚き、次に不安を浮かべた。
「先輩から手紙を預かってます。今日、出勤してすぐに渡されて、あなたが来たら渡してくれって。おかしなこと言うな、と思ったんですけど」
美和はポケットから封筒を取り出す。
閃理は奪うようにして受け取り、開封した。
今までありがとう。出ていきます。
ただそれだけが、書かれていた。
閃理はぐしゃっとにぎりつぶした。
「なんでそうなるんだよ! 意味わかんない!」
頭を抱え、がくり、と膝をついた。
「えっと……彼氏さん?」
戸惑うように美和が声をかける。
「S'il te plaît, ne me laisse pas」
聞きなれない言葉に、美和は目をしばたかせた。
お願い、置いて行かないで。
フランス語で、閃理はそうつぶやいたのだ。
「大丈夫ですか?」
美和には問いかけるしかできなかった。
閃理は答えることなく、そこにうずくまっていた。
リビングを見て、彼女の部屋の扉をノックする。返事はなかった。
はっとして玄関に戻る。靴がない。
「仕事……?」
早番にしても、出ていくのが早過ぎる。早番のときは九時くらいに家を出ていた。まだ八時だ。
スマホを取り出す。着信もメッセージもない。
嫌な予感がした。
「きっと、仕事だ」
閃理はぎゅっとスマホを握りしめた。
雪音の働く家電ショップに、閃理は開店と同時に入店した。
あふれる商品もセールを主張するポスターも、なにもかも眼中になかった。
店内を走り、エスカレーターを大股で駆け上がり、二階へ行く。
洗濯機売り場を見回し、見覚えのある顔を見つけた。
「先輩の彼氏さん!」
ぱあっと顔を輝かせ、その人物が寄って来た。
「えっと……」
「平田美和です。先輩の後輩です。って日本語おかしいですね」
えへへ、と美和は笑った。
「雪音さんは?」
聞かれて、美和は首をかしげた。
「聞いてないんですか? 仕事辞めちゃったんですよ」
「え?」
「あれ?」
美和は驚き、次に不安を浮かべた。
「先輩から手紙を預かってます。今日、出勤してすぐに渡されて、あなたが来たら渡してくれって。おかしなこと言うな、と思ったんですけど」
美和はポケットから封筒を取り出す。
閃理は奪うようにして受け取り、開封した。
今までありがとう。出ていきます。
ただそれだけが、書かれていた。
閃理はぐしゃっとにぎりつぶした。
「なんでそうなるんだよ! 意味わかんない!」
頭を抱え、がくり、と膝をついた。
「えっと……彼氏さん?」
戸惑うように美和が声をかける。
「S'il te plaît, ne me laisse pas」
聞きなれない言葉に、美和は目をしばたかせた。
お願い、置いて行かないで。
フランス語で、閃理はそうつぶやいたのだ。
「大丈夫ですか?」
美和には問いかけるしかできなかった。
閃理は答えることなく、そこにうずくまっていた。